会長挨拶

第86回日本衛生学会学術総会を、2016年(平成28年)5月11日から5月13日にかけて、旭川市民文化会館で開催致します。旭川医科大学医学部健康科学講座が担当させていただきます。

21世紀は「環境の世紀」と呼ばれて始まりました。産業革命から徐々に進みはじめた地球温暖化に由来すると考えられる異常気象は、台風や爆弾低気圧など超巨大な低気圧を生み出し日本周辺のみならず世界各地で年間を通して暴風洪水や高潮の被害をもたらしています。また火山噴火、地震や津波も各地で大きな被害をもたらしています。さらに人為的な要素のより大きくかかわる環境問題も多発し、人間の目先の豊かさや利便性を追求した過剰開発がもたらす自然環境の破壊が野生生物の生存を脅かし、日本が舞台として起こった原発事故による放射能汚染など枚挙にいとまがありません。私たちは環境との相互関係を持ちながら生活せねばなりませんから、世界で環境問題に対処しようとの機運の高まりが、新しい世紀を期に環境保全に努めようとの期待を込めて「環境の世紀」と呼んだことでしょう。ところが、相次ぐ経済危機の勃発や、暴力での変革を求める動きが顕在化し世界全体を不安定な状況に陥れるなど、重要であるはずの環境問題が後方に押しやられており、今や危機的な状況にあるといっても良いでしょう。

地球的な環境問題の解決は、世界、人類の英知を結集しても手に余る課題です。そこで今回は、私たち人間が健やかに生きるにあたって身近な自然や環境問題について考える機会としたいと願い、「生命(いのち)を衛る(まもる)自然との共生」を学会テーマに掲げました。

私たち人間も自然界を構成する生物の一種にすぎません。人間が自らの豊かさ幸福さを追求するあまり自然環境を乱すことで、同じ生物界の一員である野生動物に多大なる損害を与え、それは人間の暮らしにも悪い影響として巡ってきていることを心にとめ、坂東 元、旭川市旭山動物園園長に「野生生物と共生する人間の責任」と題して特別講演をお願いしました。またメインシンポジウムとして、「自然とともに生きる暮らし」をテーマに北海道に縁のある4名の方々から、日本の自然からの恩恵と災害、自然エネルギーの可能性について経済学、実用化している企業の立場から伺い、自然に負担をかけない私たちの生活・政策などについて学ぶ機会にしたいと思います。また、過剰開発や地球温暖化とも関連の深い国際伝染病の実態や対策について教育講演として聞きたいと思います。他にも、多くの企画をして参りたいと思います。多くの皆様の御参加のもとに活発な討論がなされる機会となれば幸いです。

北海道で開催される日本衛生学会学術総会は、1996年に札幌で行われて以来となります。5月の北海道は長らく雪と氷に閉ざされた冬が去り、一斉に春が訪れる時期です。山々の頂には雪が残りつつも里は新緑におおわれ、木々も地も花々が咲き乱れます。山海の味覚の幸も豊富となり、まさに自然の恩恵を全身に受けることが出来る時期です。開催地旭川近郊には車で一時間の範囲内でも5カ所ほどの温泉地があり、全国的に有名となりました「旭山動物園」や「雪の美術館」(アナと雪の女王の舞台に似ていると若い女性に人気です)、小説家である三浦綾子さんに所縁の記念館や文学碑など訪れていただくところも多くあります。また、美瑛や富良野、大雪山国立公園、遠くは天売・焼尻、利尻礼文サロベツ国立公園、知床阿寒国立公園など風光明媚な地へのアクセスにも便利なところです。学会で自然と健康について学んだあとには、ぜひ自然に触れて、美味しい食材を堪能し、心身をリフレッシュしていただく機会となりますならば幸いです。

本学会のような大きな学術大会を開催することは、我々にとって初めてのことでありますので、不行き届きの点、多々あるかとは存じますが、精一杯の努力をさせていただきますので、ご支援のほど宜しくお願い申し上げます。

第86回日本衛生学会学術総会
会長 吉田 貴彦

(旭川医科大学医学部健康科学講座 教授)