日本衛生学会 The Japanese Society for Hygiene

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日本衛生学会会員の皆様へ (ご意見募集)

 

2015年9月1日

 

タバコ資金で行われた研究の論文投稿や学会発表の禁止について(理事会提案)

 

 日本衛生学会は、現在、利益相反についてタバコ企業やその関連団体である喫煙科学研究財団からの補助金・助成金の受領については金額の多寡にかかわらず、開示することを求めています。このたび、理事会では、タバコ資金で行われた研究の論文投稿や学会発表の禁止措置をとることが適当との判断をいたしました。詳細は、下記の通りです。現時点で会員の各位のご意見をお訊ねし、ご意見を踏まえたうえで、最終決定を次回11月の理事会で行いたいと考えています。つきましては、ご意見をお送りくださるようお願いいたします。 

 

ご意見の送付先:日本衛生学会事務局。できるだけE-mail添付書類にてお送りください。

締切: 2015年9月末日

メールアドレス: eisei_office@nacos.com

 

          

     提案趣旨と理由 

 

 日本衛生学会では、2010年5月10日の第80回日本衛生学会学術総会で、「日本衛生学会 タバコ対策宣言」を採択し、学会としてタバコによる人類の健康被害を根絶するための活動を推進することを宣言しました。具体的な活動として、学会あるいは会員が個人として種々の介入策やとるべき行動について提言を行うこととしています。

 タバコ宣言の一環の行動として、学術活動からタバコ企業と関連団体(喫煙科学研究財団など)の影響を排除するため、これらの企業・団体から助成を受けてなされた研究については、理事会は、以下の提案をおこないます。

 

提案:国内外のタバコ企業と関連団体(喫煙科学研究財団など)から助成を受けてなされた研究については、日本衛生学会の学術総会での発表および学術誌(日本衛生学会誌、Environmental Health and Preventive Medicine)への論文の投稿は受理しない。

学術総会については、次回2016年の第86回学術総会から、学術誌は、201611日以降に投稿される論文から適用する。

 

 提案理由は以下の3つです。 

 

1.    タバコ会社の利益は人の健康を損ね、命を奪うことによって生み出されている。

 日本衛生学会は人の命(生)を衛ることを学会の目的としています。これに対して、タバコ会社は人の命を奪うタバコを販売することによって経営が成り立っています。従って日本衛生学会とタバコ会社は本質的に対立する存在です。タバコ会社やその関連団体が提供する助成金や補助金は、その趣意書にどのように良い事が書かれているにしろ、人々の健康を損ない命を奪うことによって生み出されていますので、それを受領することは、人々の健康を損ない命を奪うことを許容することになります。

 具体的には2014年に日本たばこ産業(JT)は国内タバコ事業で2,387億円の調整後営業利益を得ています。この他に海外タバコ事業でも4,471億円の利益を得ています(日本たばこ産業2014年決算情報[1])。また、JTは2014年1年間に国内で1,124億本のタバコを販売していますが、国内の市場シェアは約6割です。一方、わが国の1年間のタバコ関連死は12万人と言われますので[2,3]、そのうちの7万人以上の死亡はJTのタバコのためということができます。時間差を無視した計算で以前はシェア100%だったのでもっと多いと考えられます。

 この概算にもとづけば、JTの調整後国内営業利益2,387億円から支給される補助金は340万円ごとに、ひとりの日本人の命が奪われた結果であることになります。日本衛生学会は人の命と引き換えに生み出されたそのような資金でなされた研究活動は本学会の目的と真っ向から対立するものであると考え、それを発表する場を提供することを拒否いたします。

 なおこれに対して、JTはタバコだけでなく医薬品事業もしており、そこからも研究費が生まれているという意見があります。たしかに2014年のJTの医薬事業の売り上げは658億円ですが、その調整後の営業利益は‐73億円の赤字です。この他加工食品事業は14億円の黒字ですが、飲料事業は‐5億円の赤字で、JTの利益の99%以上はタバコ事業で生み出されているといって間違いありません[1]。従って、JTが提供する研究資金はほとんどすべてタバコ売上の利益によるものであり、ヒトの命を奪って作られたものであると考えるべきです。最近JTは缶コーヒーや桃の天然水などの飲料とその自販機を含む飲料事業を売却し、利益率の高いタバコ事業に一層集中しています。そうした中で赤字の医薬品事業を抱え続けるのは、JTは健康を阻害するだけではないというカモフラージュが目的と考えるべきです。

 

2.たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(WHO-FCTC)はタバコ会社の後援活動を禁じている。

 研究費を拒否すべきは上記の資金由来に対する論理的・道義的な理由だけではありません。法規則の面からもタバコ会社の資金を得て研究することには問題があります。わが国ではタバコ会社の「ひとのときを、想う」などのイメージ広告が毎日のように大量に流され、JTからはさまざまな奨学金や研究助成が直接[4]または喫煙科学研究財団[5]を通して社会に流され続けています。しかし2003年に世界保健機関(WHO)第56回総会において全会一致で採択され、2005年に発効した「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(WHO-FCTC)」[6] はわが国も批准していますが、その13条2項では「締約国は、自国の憲法又は憲法上の原則に従い、あらゆるたばこの広告、販売促進及び後援の包括的な禁止を行う」と規定されています。憲法や国内法との関係で多少の差はありますが、批准され発効した条約は法律と同等の意味を持ち、この規定によってタバコ会社の一切の広告やCSR(企業の社会活動)は多くの国で禁じられています。ところがJTは現在の日本がFCTC13条の適用範囲をあいまいにしていることを利用して、タバコを人々に吸わせて得た利益の中から、大学を指定しての奨学金、震災被災地における活動への補助等、CSR活動として様々な角度からJTへの拒否感を薄め、むしろ親近感を持つものを増やしできています[7]。しかし13条の1項には「締約国は、広告、販売促進及び後援の包括的な禁止がたばこ製品の消費を減少させるであろうことを認識する。」とあるように、こうした活動を野放しにすることは、タバコの販売増加=健康障害の拡大を目指していることは明らかです。日本衛生学会はFCTC13条の意味と意義を理解し、現状の日本のタバコ会社による研究助成がタバコを売るための謀略であり違法なものであると考え、その助成による研究に発表の場を貸すことをしないという意思表明が必要と考えます。

 

3.タバコ会社は資金援助を通じてタバコの健康影響に関する科学研究を歪曲する。

 「由来はともかく金は金、むしろそういう金を使ってタバコの害を明らかにする研究をすればよいのではないか」、という意見もあり得るかと思います。しかしこれについては大変興味深い研究が発表されています[8]。この研究では受動喫煙の健康影響の有無について1980年から1995年の間に発表された総説論文106編を解析したところ、うち39編(37%)が受動喫煙の健康影響を否定していましたが、そのうちの29編(74%)の著者はタバコ会社との関係がありました。多変量解析で受動喫煙は健康影響がないとする論文の様々な要素・特徴ごとのオッズ比を調べると、唯一有意に関係していたのは著者がタバコ会社と関係が有るか無いかで、そのオッズ比は88.4(95%信頼区間16.4-476.5)でした。従って客観的であるはずの科学研究においても著者のタバコ会社との関係性が大きな影響を与えており、タバコ会社から資金を得てなされた研究は、タバコの害を低く評価する方向にバイアスしている可能性があると考えられます。

 さらにより直接的にタバコ会社が研究結果を歪め論文をねつ造した例もあります[9]。この報告では、日本から発表された受動喫煙による肺がんを報告した研究[10]を、喫煙女性が喫煙を隠すことによる喫煙状態の誤分類と喫煙習慣と他の不健康な生活習慣が併存しやすいことによる交絡バイアスの2点から否定しようと計画されました。しかし日本での研究の結果は誤分類も交絡バイアスも否定するものでしたが、そのことをそのまま記載した論文は葬り去られました。かわりに、実際の調査のために来日もしなかった英国の統計学者が、タバコ会社から金をもらい、誤分類と交絡バイアスがあったとする、研究結果を100%歪曲しねつ造した論文を発表したのです。このようにタバコの健康影響を否定するためには金を使って研究を歪め、ねつ造することも辞さないのがタバコ会社であり、そこから助成を得て行われた研究を報告する場として日本衛生学会やその学会誌が利用されるべきではありません。

 

参考資料のURL

1.http://www.jti.co.jp/investors/release/latest/index_03.html

2.http://www.health-net.or.jp/tobacco/risk/rs410000.html

3.https://www.jstage.jst.go.jp/article/jea/18/6/18_JE2007429/_article

4.http://www.jti.co.jp/csr/index.html

5.http://www.srf.or.jp/

6.http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/treaty159_17a.pdf

7.http://www.jti.co.jp/csr/index.html

8.   http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9605902

9.   http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16046682

10.  http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1503989/

 

 

 

  以上